不老不死への科学


「不老不死を目指す技術」への投資ガイド

現代医療の進歩から恩恵を受け、「健康的な生活」をモットーとすることで、現代人の大部分は以前の世代よりも相当長い寿命を期待できるようになった。しかし、具体的にどのくらいまで長生きできるのかについては、まだ盛んに議論されている段階だ。

 遺伝子治療や細胞組織工学といったテクノロジーの進歩により、これから数十年のうちに人間の寿命は限界なく延びるだろうと考える楽観論者もいる。これに対し、われわれ人類は90代を大幅に超えて生き延びるようには作られておらず、もっとも壮健な体質を持つ人々でも120歳を超えて生きることはないだろうという主張もある。

 どの考え方を信じるにしろ、われわれ現代人がすでに科学の進歩の恩恵を受けているのは明らかだ。『ヒューマン・モータリティー・データベース』によると、1959年生まれの米国人の出生時平均余命(平均寿命)は約70歳なのに対し、1999年生まれの米国人では約77歳となっている。かつては死に至る病だったものの多くが、現在では苦痛をともなうが死には至らないものになっているのだ。

 しかし、老化にともなう病気の治療法の開発に取り組む企業に資金をつぎ込むというのは、投資家の財布の中身を健康に保つという見地から言うと、もっとも安全な処方箋とは言えない。バイオテクノロジー業界は、非常に幅広い分野で寿命の延長に役立つ画期的な技術を生み出す可能性があると謳っているものの、投資の対象としてはリスクが高いことでも有名だ。このリスクを減らすために覚えておいた方がよいことを、以下にいくつか挙げよう。

すぐに利益の上がる企業がお好みなら、別の業界へ投資を:名前を売りたがっている医療技術企業のプレスリリースを読んでいると、ガンの治療やアルツハイマー病の根絶、悪い臓器を遺伝的に適合する代替臓器で置きかえる技術などが、今すぐにでも実現しそうな気になってくるはずだ。

 しかし、新薬や新しい治療法に関して規制当局から認可を得るために必要な複雑な手続きに通じている人なら、研究室で成功した画期的技術が臨床向けに認められるまで、数十年とは言わないまでも数年の期間がかかることもわかるはずだ。それに、すべての発見が実際に役立つ治療法を生み出すわけでもない。

 このように、研究室で得られた成果がひろく一般に受け入れられるまでには時間がかかることは、バイオ・医療技術系の企業が大幅な赤字を抱える大きな理由の1つになっている。投資家は、現在の売上でなく将来の可能性に投資しているということを肝に銘じることだ。

人間の寿命が大幅に伸びるという説を自分が本当に信じているのか、よく考えること:医療や科学の分野で申し分のない権威を持つ人物の中にも、これから30年ほどの間で人類は自らの寿命を劇的に延ばす方法を手に入れると確信している人(日本語版記事)は多い。

 長寿をめざす診療所『フロンティア・メディカル・インスティテュート』をデンバーに設立し、『素晴らしい旅:永遠に生きられるまで長生きしよう』(Fantastic Voyage: Live Long Enough to Live Forever)の共著者でもあるテリー・グロスマン博士もそんな1人だ。これから10年以内に、人類は平均寿命を毎年1年以上延ばす段階に入るだろうと、グロスマン博士は予言する。ゲノム研究や幹細胞治療、遺伝子発現としてのタンパク質を研究するプロテオミクスといった先端技術の組み合わせの後押しにより、人類の寿命は伸びていくというのがグロスマン博士の見方だ。

 しかし、この説を心から信じていたとしても、不老不死に取り組む企業をベースに筋の通った投資戦略をまとめるとなると、また別の難しさがある。投資家が長寿関係企業に着目する場合、現時点ではどう行動すべきかと問われたグロスマン博士は、プロテオミクスの分野の会社に投資するよう勧める。

 グロスマン博士推薦の戦略をとろうというなら、それなりの選択肢がある。現在、米国の証券取引所には、プロテオミクス研究に関連した会社が数十社上場している。

 しかし、ケンブリッジ大学の老年学者、オーブリー・ド・グレイ博士は、本当に画期的な長寿化技術が登場するには、まだまだ時間がかかると言う。ド・グレイ博士は、老化による損傷は科学によって修復可能になるという説を発表し、議論を呼んでいる。

 「現時点で、年齢相応に健康な人の寿命を飛躍的に延ばすものは存在しない」とド・グレイ博士は語る。

健全な投資をしたいなら慢性病を狙うこと:十年単位でなく、もっと短期的に利益を手にしたい投資家なら、すでに健康でない人の寿命を延ばすテクノロジーに着目した方が賢明だろう。

 寿命が延びるにつれて、ガンや糖尿病をはじめ、いちいち挙げ切れないほどの慢性的な疾患に悩まされるケースは増えている。かつては死に至るものだった病気が、今では治療可能になったものの、慢性疾患と化すことが多くなっているのだ。

 「ビジネスとして考えるなら慢性疾患は理想的だ。患者には悪いが、お客は繰り返しやってくるのだから」と語るのは、『メディカル・テクノロジー・ストック・レター』の編集者、ジョン・マカマント氏。同氏は、これから多くの病気がヒト免疫不全ウイルス(HIV)と同じ道をたどると考えている。HIV陽性であることがほぼ確実な死の宣告を意味したのはそう遠い昔のことではない。だが今では多くの場合、薬の組み合わせで慢性状態に追い込むことで、治療可能な病気として扱われている。

 慢性病に対する画期的な治療法を持つ会社を探している投資家に、マカマント氏は妥当な投資先としてバイオ業界の巨大企業、米ジェネンテック社(カリフォルニア州サウス・サンフランシスコ)を勧める。多くのバイオ企業と異なり、ジェネンテック社は利益をあげている。また、マカマント氏は同社のガン治療薬『アバスチン』の将来性も評価している。しかし、同社の株価は現在約89ドルと、過去52週の最高値に迫る勢いを見せており、決して安値株とは言えない。

 中型株の中では、薬物送達技術が専門の米アルカーメス社(マサチューセッツ州ケンブリッジ)をマカマント氏は勧める。また、同氏はタンパク質療法を開発中の米ジェンベック社(GenVec、メリーランド州ゲーサーズバーグ)もお気に入りで、自身も株を多少所有している。

 製薬会社への投資の好材料として、マカマント氏は、米食品医薬品局(FDA)がいったんある治療薬を認可した場合、認可を受けた会社が最大で17年間、独占的にその薬を販売できる点を指摘する。この間、競合他社は同じ薬を販売できない。

人口統計をよく見ること:ベビーブーム世代――1946年から1964年の間に生まれた人たち――が老年期にさしかかりつつあり、来年以降、現在7500万人以上いる米国のベビーブーマーが次々と60代に入る。ベビーブーム世代の政治的・社会的な影響力に加え、その人数の多さだけを考えても、老化に関連した研究にもたらされる資金は、公的・私的を問わず、確実に増加するとみられている。

楽観論の裏側に気をつけること:ポンセ・デ・レオン[スペインの探検家、不老長寿の島を探すうちにフロリダ半島を発見]の時代から今に至るまで、投資家たちは若さを取り戻させるという「青春の泉」を求めて莫大な金額を投資してきた。そして、多くの金を失ってきた。

 「老化へ向かう流れを逆転させるという話があっても、それほど信用できるものではないはずだ」と語るのは、市場調査会社、米ビジネス・コミュニケーションズ・カンパニー社のアナリスト、ジュリア・ドボーコ氏だ。ドボーコ氏は高齢者を狙う会社の調査を担当している。

 『ヘイフリックの限界』(人間の細胞が分裂する回数は有限だとする法則)を発見したレオナード・ヘイフリック博士はより直截な表現を用いた。最近、老年学に関する学術誌に寄せた記事の中で、ヘイフリック博士は「どのような手段を用いようとも、人間の老化のプロセスを遅らせたり、止めたり、逆行させたりすることはできない」と述べている。

 最近では、米ジェロン社(老化の時計を巻き戻す可能性が指摘されているタンパク質、テロメラーゼを元にした技術を開発している企業)へ投資した人たちが、ヘイフリックの限界に挑んだものの、損害をこうむっている。2000年のピーク時には60ドル以上の値をつけていたジェロン社の株価は、今では10ドルほどだ。

 それでも、寿命を伸ばす画期的な新技術に注目する投資家たちは、我慢して時を待っている。技術が成功を収め、本当に永遠の命が手に入るようになるのなら、投資家たちが所有するバイオテクノロジー企業の株式が利益を生むまで待つ時間は十分すぎるほどあるからだ。

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