不老不死への科学


コンピューターに魂がやどり、人間は機械化する(wisdom)

スキャナーやOCR、シンセサイザーなどを次々と世に送り出したカーツワイルは、現代を代表する発明家であり、未来派科学者だ。彼の著書「スピリテュアル・マシーン--コンピュータに魂がやどるとき」では、コンピュータの限りない人間化が語られている。さらにカーツワイルは、人間の機械化も予言している。「限りなく人間に近い機械」と「限りなく機械に近い人間」。「人間と機械の境界が曖昧になってきている」と語るカーツワイルは、今後の人間と機械の関係をどう予測するのだろうか?
機械はますます人間のようになってゆく
 2029年までには、人間のように情緒的で微妙な反応をし、人間のように振る舞い、人間と見分けがつかないような実体(機械)に遭遇するだろうと私は考えている。この実体は、人間に対して説得力のあるプレゼンテーションもおこなえるようになる。そして、これは昔ながらの単なる機械なのか?あるいは意識を持った機械なのか?哲学の問題として議論されることになるだろう。
 人々が「機械と人間の違い」について考えるとき、まず人間には魂(感情)があるという点を意識するだろう。我々は、コンピュータに苦痛や苦悩をもたらすことになっても気にならないが、それが人間に対してとなると話は違ってくる。動物に対してはどうだろうか?この問題は、すべて感情というものをどのように捉えるか?定義するか?ということがポイントとなる。
人間のように考える機械の登場
 機械(コンピュータなど)は、ものすごい計算速度と記憶容量を持っている。人間は機械のように、同時に多くの分析を速くおこなうことはできない。人間がたった1つの電話番号を思い出すのに手間取っている間に、機械は何十億もの電話番号を思い出すことができるのだ。コンピューターがチェスをする場合、わずか数秒で非常に正確に、何億通りものシーケンスを分析することができる。世界チェスのワールド・チャンピオン、ガリー・カスパロフでさえ、分析できるのは毎秒1手未満だと言う。だとすれば、なぜ人間が機械に対抗できるのだろうか?
 それは、我々人間はパターン認識の優れた能力を持っているからだ。エキスパートと呼ばれる人は、その専門分野の約10万のパターンもの知識をマスターしていると言われている。したがって世界チェスのワールド・チャンピオン、カスパロフは、チェスの盤面を見るやいなや彼がマスターしている10万パターンの盤面の状況と比較し、一瞬にして、コンピュータよりも優れた答えを出すのである。
 これまでの研究で、知能の大部分がパターン認識に基づくということが明らかになった。これは、いわゆる並列処理のプロセスである。我々の思考は非常にゆっくりでも、脳内では100兆もの思考(パターン)と内部で接続されている。そして、何かを考える時、同時に膨大なパターン認識をおこなっているのである。
 感情は知能の副産物ではない。それは我々人間がおこなう最も複雑で微妙なもので、パターン認識における究極のハイ・レベルな行為である。人間はまずはじめに、より低いレベルで、聴覚・視覚によって起こっていることを認識する。その後、抽象化をおこない、より高いレベルで何が起こっているかを判断し、決断を下すのだ。その時我々は、これまでの経験や予備知識のデータとパターン認識をおこない、次に、恐れるのか、喜ぶのか、あるいは腹を立てるのかといった情緒的な判断を下す。これらはとても速く、微妙で、非常にハイ・レベルの抽象的な判断であり、人間の知能の最先端な部分でもある。
 人間の脳の視覚や聴覚に関するパターン認識領域は、人間の進化の過程で開発されたものだ。我々は、金融データのパターン認識をするのは得意ではないが、それは機械にとっては得意なものだ。パターン認識技術の応用例として、現在我々は、株式市場の動きをコンピューターでパターン認識させるプロジェクトに従事している。我々のコンピュータは「Fat Kat」(Financial Accelerating Transactions from Kurzweil Adaptive Technology)と呼ばれる資金を使って株式投資をおこない、月に約一割程度の利益を生んでいる。今はまだ実験の段階だが、我々は、この技術を使って、ヘッジファンドを始めようと考えている。
限りなくリアルなバーチャル・リアリティの登場
 これからの10年でコンピュータと人間の関係は、さらに密接なものへとなってゆくだろう。我々は常にコンピュータを使い、それが日常生活に組み込まれていくのだ。そして、個性や基本的なレベルの感情すら持っているコンピュータが現れるだろう。コンピュータが持つ感情は多種多様となり、例えば、娯楽やゲームにおける情緒的なキャラクターといった興味深い展開から、実用に即した微妙な感情を表現するものも出てくるだろう。そうなればコンピュータは、ユーザの基本的な感情の状態を理解し、定型業務を頓挫することなく快適に処理するようになる。既に、ある航空会社の電話予約システムでは、バーチャル・エージェントとの音声会話によって、合理的で柔軟な予約がおこなえるようになっている。
 そして電子機器はますます小さくなっていくことだろう。映像は、眼鏡やコンタクトレンズから網膜へ直接伝えられるようになり、耳の内部には、音声情報を提供するデバイス(装置)を装着するようになる。私たちは既に、電話と呼ばれる聴覚に対するバーチャル・リアリティを実現しているユビキタス・デバイスを持っている。電話を使えば、少なくとも音声によるコミュニケーションにおいては、あなたと私が一緒にいるかのように感じることができる。今後我々は、そこに視覚的な感覚を加えることになる。それはディスプレイ上に現れる粒子の粗い画像ではなく、実際にあると確信させる三次元的なバーチャル映像だ。近い将来、視覚と聴覚のバーチャル・リアリティは、どこにでもあるようになるだろう。
 私は、三次元バーチャル・リアリティの初期バージョンについて語ることのできる、世界で唯一の人間だ。私が開発したテレポート・テクノロジー装置は、演台に私の姿を三次元で映し出すことができる。バーチャル・リアリティだと気付いていない聴衆には、あたかも私がそこに自分で立っていると思うだろう。これによって現在、私はオフィスを出ることなく、バーチャル・リアリティの話題について、地球上の誰に対してでもプレゼンテーションをすることができる。現状でこういったバーチャル・リアリティのプレゼンテーションをするためには、現場に特別な通信回線を設置するための高額な経費と手間が必要だが、もうじき我々にとって身近なものになるだろう。
 この種のバーチャル・リアリティを使ったコミュニケーションやプレゼンテーションはさらに高度化し、我々が会っている会議室が、地中海の海岸に面した美しい場所にあるかのような体感ができるようになる。そこでは、歩き回ったり、周囲の状況を見たり、付帯情報にアクセスすることもできる。つまり、現在我々が実際に地中海に面した会議室に行って、誰かに会うよりも多くの情報を得られるようになるのだ。 誰かを見たとき、視覚的な情報と同様に、彼らのバックグラウンド情報も同時に入手できるようになるだろう。例えば、会っただけで彼らの名前だけでもわかれば、非常に便利だ。また、建物や物体を見ただけで、それが何であるかも分かるようになる。さらに実生活で起こっている様々な局面に対して、我々の助けになるような情報も提供してくれるようになるのだ。また、映画やビデオを見ているときに、リアルタイムで翻訳された音声が提供されたり、視覚障害者に対して、視覚的な情報を直接神経にリアルタイムに提供することができる。さらに外国に行った時に、視界に入った看板に集中すれば、その翻訳が視野に現れたり、異なる言語を話す人と会話をする時にはリアルタイムに翻訳された字幕が現れるなど様々だ。
 最近、ドイツ語しか話せない女性と話した時、私が開発した自動翻訳技術を使って、私は英語で彼女に話しかけ、彼女はドイツ語で私に応えた。リアルタイムの自動翻訳プロセスによって、非常にうまく意思の疎通ができた。これは私が作ろうとしているものの初期のプロトタイプにしか過ぎない。しかし、この種の技術は、今後10年でより健全なユビキタス・テクノロジーに進化するだろう。
バーチャル・パーソナリティ"Ramona"
 近い将来我々は、仮想人間=「バーチャル・パーソナリティ」を持つようになるだろう。私のホームページ、kurzweilai.netでは、この「バーチャル・パーソナリティ」の初期のプロトタイプを見ることができる。サイトを訪れると、そこにいる「バーチャル・パーソナリティ」"Ramona"は、レイ・カーツワイルの女性の親友だと自己紹介をする。彼女とはチャットをすることもできるし、「ナノテクノロジーとは何ですか?」とか、「バーチャル・リアリティにおける新しい話題は何ですか?」といった質問をすれば、それにも答えてくれる。さらに彼女は、自分が知っていることが、他のすべての考え方とどのように関係があるかを示すとともに、その話題に関連するサイトの情報も教えてくれる。彼女は既に、このようにリンクされた何千もの知識を持っている。
 今後10年も経てば、必要な時に視界に現れ、機械的な合成音声ではなく、人間のように自然に話す「バーチャル・パーソナリティ」が出現するだろう。我々は「バーチャル・パーソナリティ」を人間と見誤ることはないだろうが、それらは人間のように見えて、会話する能力を持っているのだ。したがって、我々は「バーチャル・パーソナリティ」に、あたかも人間と会話するように話したり、助けを求めたりすることになるだろう。
 2020年代の終わり頃か、2030年代までには、生物学的な意味での知能=「人間」と、生物学的ではない知能=「機械」との間に明瞭な区別はなくなるかも知れない。その「人工知能」とも呼ばれる生物学的ではない知能は、知能のリバース・エンジニアリング、つまり人間から次々と知識を吸収することによって、人間の持つ複雑さや繊細さ、情緒的な質の高さに到達することだろう。
将来人間は、未来を切り拓くために機械と融合する
 限界を超えようとするのは人類の性質だ。人類は、その活動の限界を地上に留めなかったばかりか、宇宙空間まで広がった。また、過去150年で平均寿命を二倍に延ばし、現在も急速に延び続け、生物学上の限界さえ超えようとしている。
 今後人類は、ますますテクノロジーと融合してゆくことだろう。そのプロセスは既に初期の段階にある。例えば、現在、パーキンソン氏病の患者は、その疾病によって破壊される脳の部分を神経の移植によって置き換えることが可能だ。そのうちに、知能を持ったナノボットを毛細管から脳に送り込み、外科的手術なしに、生物学的でない知能(機械の人工知能)を導入することができるようになる。
 そして我々人間は、最終的に身体と脳のシステムをすべて再構築することになるだろう。そのプロセスは徐々にではあるが、既にはじまっている。現代における人間の進化の最先端にあるのは、生物学的な問題ではなく、技術革新なのだ。

レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)
発明家、未来派科学者、作家。
カーツワイルは、1975年にフラッドヘッド式CCDスキャナーを、1976年にはオムニフォント光学式文字認識システム(OCR)を開発した中心人物として有名である。その後も視覚障害者のための音声読み上げ装置、テキスト読み上げシンセサイザー、ピアノをはじめ様々なオーケストラの楽器を再現するミュージック・シンセサイザー、商業用の大型音声認識システムなどを開発した、現代を代表する天才的な発明家である。
また、発明および技術革新分野で最も権威のある「MITレメルソン賞」を受賞したほか、1994年には、カーネギー・メロン大学の最高科学賞「ディクソン賞」を受賞。このほか10の名誉博士号を有し、3人のアメリカ大統領からも表彰されている。2002年には、アメリカ特許局が設立した「National Inventors Hall of Fame」に殿堂入りを果たしている。
さらに作家としても「The Age of Intelligent Machines」や「スピリテュアル・マシーン--コンピュータに魂がやどるとき」など、ベストセラーを次々と生み出している「現代の鬼才」である。

関連情報

カーツワイル・ホームページ
カーツワイルAI・ホームページ
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