不老不死への科学


遺伝子治療に新たな光――「亜鉛の指」でDNAを自己修復(hotwired)

ほとんどすべての欠陥遺伝子を安全に修復できる技術を完成に近づける研究成果が発表された。これが実現すれば、現在治療不能と考えられているさまざまな遺伝病にも、治療への道が開かれることになる。

 『ネイチャー』誌の6月2日号に発表されたこの画期的な治療法が利用しているのは、「ジンク(亜鉛)フィンガー」だ。1つの亜鉛イオンから細長いアミノ酸配列が突き出したような形をしている。これをヒトの細胞に挿入すると、間違った遺伝子情報を持つDNA構造部分に自動的に結合して、体の先天的な修復メカニズムを刺激し、問題のある部分を正しい塩基配列に直させる。

 別の遺伝子を細胞に注入することで間違った遺伝子情報を持つDNAを修復するという遺伝子治療の手法は、3年前にも大きな話題になった。フランスとイギリスの医師たちが、X連鎖重症複合免疫不全症(SCID)について何人かの治療成功例を発表したのだ。SCIDは「バブルボーイ」症候群とも呼ばれる難病だ。だが、のちに、この治療法は結局安全でないことがわかった。

 ネイチャー誌の論文では、バイオ企業の米サンガモ・バイオサイエンシーズ社(本社カリフォルニア州)の科学者たちが、ジンクフィンガーを利用することで、有害な副作用の危険なしにDNAのターゲットとなる部分を消去できることを示した。

 「この操作は別の遺伝子を細胞に注入するものではない。これは、間違ってコードされた部分を削除し、問題を修正するものだ」と、ノーベル賞学者でもあるカリフォルニア工科大学デビッド・ボルティモア学長は解説する。ボルティモア学長は、サンガモ社の論文の執筆者でもあるマシュー・ポーチェス博士とともに、この方法で遺伝病を治療することを提唱した。

 この画期的治療法の根底にあるのは、「壊れているなら、もっと壊せ」という考え方だ。細胞は本来、染色体を構成するDNA二重らせんの切れ目を修復する「相同組み換え」という修復の手法を備えている。だがこの手法で修復できるのはDNAが途切れている場所だけで、コードが間違っている場所は修復できない。

 サンガモ社の研究者たちは、いくつかの合成ジンクフィンガーを使用することで、細胞に自身の遺伝子の極小の手術を行なわせられることに気づいた。ジンクフィンガーは誘導ミサイルのように遺伝病の医師たちが狙った場所に正確にたどり着き、そこに結合する。そこでDNAを破壊する酵素が、ターゲットとされた遺伝子の始まりと終わりのポイントで、DNAの二重らせんを切断する。そして染色体外にあるDNAのテンプレートを元に、切断されたDNA構造が再構築される。

 こうした治療法の理論は、ボルティモア学長などによって何年も前から立てられていたが、実際のヒトの細胞を使った実験の結果を示したのは、サンガモ社の科学者たちがはじめてだ。ネイチャー誌の論文でサンガモ社の研究者たちが示した方法では、X-SCID患者から採取したT細胞の18%で欠陥遺伝子の修復に成功したという。

 サンガモ社によると、これだけ修復できれば病気は治癒するという。ヒトの免疫システムに正常な細胞群を復活させるには、修復されたT細胞が1つあれば十分だからというのがその理由だ。

 遺伝子の操作によって病気を治療するという考えが提唱されたのは30年も前のことだが、今回の試みが成功すれば、遺伝子治療での初めての成功例となる。これまで、ほとんどの遺伝子治療の実験は失敗に終わってきた。新たな遺伝子を細胞に注入する方法(通常、遺伝子を組み換えたウイルスをベクターとして使用する)が十分に効果的だと立証されなかったのだ。

 いったんは成功したものの、悲惨な結果に終わった試みもある。たとえば2002年にフランスで実施されたX-SCIDに対する遺伝子治療で、レトロウイルスを使って新しい遺伝子を患者に注入するというものだった。この新しい遺伝子によって12人の患者のX-SCIDは治癒したものの、そのうちの3人がその後白血病を発症してしまった。結局、導入された遺伝子は、X-SCIDに打ち勝つタンパク質を生み出すと同時に、場合によってはガンを引き起こす遺伝子を活性化させるという予期せぬ副作用を生み出すことがわかった。

 サンガモ社の技術ならばこの問題を克服できる。フランスの治療で用いられたベクターウイルスは導入遺伝子を無作為に宿主細胞に注入したが、ジンクフィンガーは非常に限定的に、ターゲットとされる遺伝子だけに取り付くことが可能だ。

 マサチューセッツ大学医学部(マサチューセッツ州ウースター)でジンクフィンガーを研究しているスコット・ウォルフ博士は、「サンガモ社によって、遺伝子治療の安全性のレベルが確実に上がった」と述べた。原理の実証を目指した初期の実験は、細胞にとって非常に有害だったとウォルフ博士は指摘する。その頃のジンクフィンガーはそれほど限定的に働かず、DNA二本鎖にあまりに多くの切れ目を作ったため、多くの細胞はすべての切れ目を修復しようせずに死滅する方を選んだ。「彼らはこの有害性の問題を丸ごと解決したようだ」

 この治療法が実施されるのはおそらくX-SCIDの患者が最初になるだろうが、多くの病気に対しても非常に幅広い用途がある。「現在のところ、この治療法はごく小さな遺伝子修復に最も適しており、そこが最大の弱点のようだ。DNAの長い塩基配列を修復する必要がある場合、この治療法は最適とは言えないだろう」とボルティモア学長は言う。

 それでも、遺伝子全体を置き換えずに病気を攻撃する方法はたくさんある。この治療法を活用できる疾患も、各種のガンや嚢胞性線維症、さらにはエイズなど多岐にわたる。「ゲノムのどの場所でもジンクフィンガーを最適化する方法が見つかれば、どの遺伝子もターゲットにできるようになるだろう」とウォルフ博士は述べた。

手の届くところにあるヒトゲノム修復

(Nature Method)

カスタマイズしたDNA切断酵素を用いて、ヒト細胞における相同組換え成功率の大幅な向上が可能になった。このことは遺伝子治療に極めて大きな影響をもたらす可能性がある。

生細胞(ひいては動物全体)のゲノム配列を標的相同組換え法を用いて能動的に書き換えられるようになったことで、生物学は大きく変化した。しかし残念なことに、マウス胚性幹細胞において非常に有効な従来のターゲティング手法をヒト細胞に適用すると、極めて低い相同組換え率しか得られない。ウイルスによる組み換え(virus delivery)などかわりの手段も有効ではあるものの、導入遺伝子が不適当な部位に組み込まれたり、内在性遺伝子の配列が破壊されたりする危険があり、悲惨な結果を招く可能性がある。

相同組換えは、二本鎖DNAの切断部位で生じることが多い。理論上、ゲノムの切断部位を正確に選択できれば、より効率的なジーンターゲティングが可能になるはずである。よく知られており特徴的なDNA結合タンパク質モチーフのひとつであるジンクフィンガーは、a‐ヘリカルドメインを介して特異的な3‐4ヌクレオチド配列を認識し、結合する。ジョンズホプキンスの研究者Srinivasan Chandrasegaranの研究により、ジンクフィンガードメインを異なる特異性のものと交換することで、ヌクレアーゼの標的指向性を変えられることが示されている。ユタ大学のDana Carrollと現在テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター(米国テキサス州ダラス)所属のMatthew Porteusは、この研究を一歩先へと進め、キメラ・ジンクフィンガー・ヌクレアーゼ(ZFN)を用いてカエル、ショウジョウバエ、ヒト細胞の相同組換えを誘導した(Bibikova M. et al., 2003; Porteus & Baltimore, 2003)。

Sangamo BioSciences社(米国カリフォルニア州リッチモンド)のMichael HolmesらはPorteusと共同で、新しい遺伝子治療法を見据えて、この技術の開発に着手した。「ジンクフィンガータンパク質は、ゲノムの事実上すべての配列に対し標的化できます」とHolmesは語る。「また、3、4、または6つのジンクフィンガーを有するドメインを用いて行うため、原則として9、12、または18塩基対を認識するドメインを特定できます。」切断が起きるためには、2つのZFNが協調して作用しなければならない。すなわち、これらの操作された2つのZFNが調べたい部位の両側に結合し、切り込みを入れる。その後、染色体と「ドナー」DNA分子との間で相同組換えが生じ、望ましい配列変化を導く(図1)(Urnov et al., 2005)。

図1:ZFNを介した相同組換え

(a)ゲノム変異(赤)のどちらかに結合するよう操作した複数のジンクフィンガーモチーフによるDNA結合ドメインを有する2つのZFNが、2本鎖DNAの切断を導入して変異を取り除く。
(b)相同的な修復経路が、変異を持たないドナーDNA断片(紫)の効率的な相同組換えを仲介する。
(c)変異した遺伝子が修復される。

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ヒト赤白血病K562細胞を用いた実験において、同グループは伴性重症複合型免疫不全(SCID)の原因とされるIL2RG遺伝子を標的とした。最適化したZFNを用いてサイレントな点変異の導入を仲介することにより、21%という高い組み換え効率が得られた。こうした変化は時間を経ても安定で、遺伝子変換細胞の相対的比率は1か月後も一定であった。2度目の実験では、処理した細胞の6.6%において、内在性遺伝子座の両アレルが改変されたことが実証された。この戦略を用いて同じ遺伝子にフレームシフト変異を導入したところ、mRNAの適切な減少がみられ、ヘテロ接合およびホモ接合変異体の両方について、タンパク質濃度の明確な検出が可能であった。その後、同グループは、ZFNが点変異だけでなく、より大きな配列変化の導入も仲介できることを示している。

効率的で標的化した2アレル遺伝子組換え法の有効性を示して以来、同グループは現在このシステムの実用性の向上に取り組んでいるとHolmesは述べている。「短期的な目標は、T細胞や幹細胞などの主要細胞にヌクレアーゼやドナー分子を導入できるより良いデリバリーシステムを開発すること、またそれを動物実験や臨床試験への移行に必要な研究に対応できるよう進めることだと考えています。」この技術は遺伝子治療に応用できる可能性が大きいと考えられており、動物試験の最初の計画が既に検討されている。「我々は現在、伴性SCIDプロジェクトの動物実験を計画しているほか、近々臨床試験に移行する確率が最も高いと考えられる別のプロジェクトも、CCR5を実際に標的とし、CCRを改変して細胞にHIV感染に対する抵抗性を与えることを目的としています。」

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